「ジェラート」と聞くと、多くの人は甘いデザートを思い浮かべるのではないでしょうか。
そんな常識を覆し、ジェラートを料理の「ソース」として取り入れる挑戦をしているのが、ANAクラウンプラザホテル札幌 2階「オールデイダイニング メム」の料理長、李澤(すももざわ)さんです。
プロの料理人が求めるシビアな要求に、ジェラート職人が技術と知識で応える。
そうして生まれた、これまでにない新しい食の体験について、李澤料理長に詳しくお話を伺いました。
デザートではなく「料理」に使う。ジェラートの新しい可能性
最初にuniさんの話を聞いてみて、まず感じたのはジェラートの可能性でした。
世間一般的には、ジェラートというとどうしても「甘いデザート」というイメージが根強くあります。
でも、海外の先進的な料理人の中には、ジェラートを料理に展開している方もいます。
野菜や香辛料を活かした料理への応用はあったものの、ジェラートの状態にして使うというのは、日本ではまだあまり展開されていません。
ジェラートを料理に使えないか、そう感じていたタイミングでuniさんとの出会いがあったんです。
料理人の感覚を持つジェラート職人
ホテルにもソルベ(シャーベット)を作る機械はあるんです。
ただ、質感や風味、味にこだわって、私たちの頭の中にあるイメージを形にするのはすごく難しいんですよね。だからこそ、uniさんのジェラート作りは、私たちから見ても本当に簡単じゃないなと思っています。
例えば、ジェラートの「甘み」ひとつをとっても、砂糖、シロップ、蜂蜜と選択肢は無数にあり、それぞれに特有のコクやキレ、いわば甘みの高低差があります。
uniさんはその使い分けが驚くほど巧みなのです。
「糖分としての性質は必要だが、主役ではないため甘みは徹底的に抑えたい」という、料理人のシビアな要求に応えるジェラートを作れること。これこそがuniさんの圧倒的な強みです。
さらに驚いたのは、濱屋社長の食材に対する知識の深さです。
料理人ではないのに、私たちがメニューを考えるときに参考にする『フレーバーマトリックス』やペアリングの本を、普通に持っているんですよね。

「この組み合わせはどうだろう」と提案しようとしたら、濱屋さんも全く同じ本の知識があり、あのときは思わず笑ってしまいましたし、同時に深い信頼を覚えました。
「料理人の感覚で食材を組み合わせ、ジェラートを作る職人」
だからこそ、ただのスイーツではない、料理に合うソースとして機能するジェラートが実現するのだと思います。
「すべてのソースはジェラートにできる」と確信した
初めて依頼をしたのは2025年のこと。
「パインとセロリとショウガ」「スイートチリ」「バルサミコ」「ブラックオリーブ&タイム&アップルビネガー」という、4種のジェラートをリクエストしました。
例えば、バルサミコドレッシングは、オリーブオイルと塩を合わせるだけではよくある味に収まってしまいます。
それをこれまでにない形でアプローチしたい、だからジェラートにできないか 。
そう相談したとき、濱屋社長は「できると思いますよ」と、淀みなく応えてくれました。
濱屋社長は、絶対に無理ですとは言いません。まずはやってみる。その姿勢が何より素晴らしいと感じています。
私自身も「失敗してみなければ何が失敗かも分からない。そこから変えていけばいい」という考えを持っているので、最初から完成されたものを求めてはいません。
しかし、試食で出来上がってきた「バルサミコのジェラート」を口にした瞬間
「世の中のソースは全部ジェラートにできるんじゃないか」と確信しました。
スイートチリジェラートも然りで、出来上がったものに料理を合わせることは私の得意分野です。
ソースを試食し、料理を考える。そのプロセスが料理人の私をいつも楽しませてくれるんです。

料理に冷たいジェラート。お客さまを驚かせる演出
こうして生まれたジェラートソースは、ANAクラウンプラザホテルのランチバイキングのライブキッチンで提供しています。
※季節により変動します。
提供する際に、熱い料理の上に冷たいジェラートを乗せ、「これがソースの代わりです」とお客さまにお出しする。
最初はみなさん目を丸くされます。しかし、一口食べると「美味しい!!」と、たちまち笑顔に変わっていくんです。
通常のドレッシングやソースは、かけてしまうと見た目の変化に乏しく、正体が伝わりにくいものです。
でもジェラートの状態でポンと乗っていれば、食べる瞬間まで「これ何だろう?」という見た目のサプライズを保てます。
しかも、温かい料理の上で冷たいソースがじわじわと溶けていく。この「温度差」が一緒に楽しめるのも、ジェラートだからこそできる魅力です。
周りの料理人たちの反応も面白くて、みんな驚いていましたね。
やっぱりみんな「ジェラート=デザート」という先入観が強いので、そこを根本からひっくり返されるのが衝撃的だったんだと思います。
濱屋さんの発想の根本には、「甘くある必要はない」という自由な考え方があります。
辛くてもいいし、酸っぱくてもいい。そのスタンスを全く否定しないで受け止めてくれるから、こちらとしてもアイデアを何でも持ち込めるんです。
現在は「味噌」や「塩麹」などの調味料を使ったジェラートの開発を進めています。
単一の味ではなく、そこに香辛料やフルーツを掛け合わせ、料理に寄り添うよう甘さをひき立たせる。
そんな一筋縄ではいかないコラボレーションを、uniさんとこれからもずっと続けていきたいと思っています。
uniさんとの協業はこれからの食文化を面白くする
私たちがこうしてジェラートを料理に活かし、発信していくことで、「料理にはまだ、こんな表現の自由があるのだ」ということを多くの人に知ってほしいと願っています。
この取り組みを、私とuniさんだけの秘密にするつもりはありません。
既存の概念を覆す料理がどんどん増えれば、世の中の食文化はもっと面白くなるはずですから。uniさんが、新たな形で社会に広がっていくなら、これほど嬉しいことはありません。
時折、濱屋社長は「何に使うかは決めていないけれど、面白いものができたから試してみて」と、試作を持ってこられます。
「これはシェフへの挑戦状だな」と苦笑しながらも、私の頭は即座に、それを活かすための新しい料理の構想を考えます。
毎回、お互いの脳を刺激し合うような、未来の食につながる実に楽しい関係です。
uni濱屋社長より
『ジェラートの可能性、ひいては料理そのものの可能性をより拡大していきたい』
開業当初より私が常に考えている、目指す未来です。
この未来を実現するためには、絶対に自分一人のアイディアと力では成し遂げられない。
より多くの専門家の方々のアイディアと経験をお借りしながらともに築いていく必要がある、と感じています。
『食材であれば全てジェラートにできる』
この事実に私は衝撃と好奇心が刺激され、この自由度の高い調理法に魅せられジェラート職人の道を目指しました。
『ガストロノミージェラート』という料理の素材としてジェラートを用いる分野はイタリアに渡る前から、独学で調べた際に知っていました。
イタリアのジェラート大学にて深い専門知識と経験を経た上で、自らの手で思い描く味や食感を形にすることができるようになりました。
ただ、いざ商品化するとしても、肝心の料理に関する知識と経験が圧倒的に自分は不足しているという自覚があり、この足りない部分を専門家の方にご意見を伺ってみたい、と考え飛び込みでANAクラウンプラザホテルの支配人である川手様にアポをとらせていただきました。
名もなき若輩者の申し付けに快く応じてくださり、その後すぐに専門家同士で話し合った方が良い、と判断してくださり李澤様をご紹介していただきました。
今でも忘れられないのが、ご試食用にお持ちした『焼きトマト』のジェラートを口にして頂いた際に、李澤は満面の笑みを浮かべて『甘くないジェラートってもしかして作れたりするの?』と訊いて下さったことです。
そこからはとんとん拍子で話が進み、李澤様は完全にジェラートに関する考え方が変わったようで、『こんな組み合わせの味作れるかい?』と様々な新たな創作フレーバーをご提案くださりました。
私自身どの組み合わせも初めての試みではありましたが、形にできる自信はあったため、チャレンジさせて下さいとお伝えし、商品開発を行いました。
ご依頼いただいた組み合わせのジェラートが、実際にどのような食材やお料理に組み合わせるか具体的にはわからない状態での試作でしたが、どのような形になろうとも、李澤様であればそれに合わせた料理に仕上げてくださるという圧倒的な信頼があるため、私も迷いなくチャレンジできております。
私の経歴が特殊なこともあり、『ジェラート』というものを非常にフラットに俯瞰して捉えられている感覚があります。
『ジェラートは数ある調理方法の中の一つである』
当たり前のようでジェラート職人の多くは認識できていない事実です。
各分野の専門家の道に進むと、どうしても自分の分野が秀でている、または特別であるといった自負と自信が知らず知らずのうちに己の中で培われてしまいます。
どの調理法にも一長一短があり、ジェラートにおいてはそれが何なのか私は冷静に捉えています。
その上で、料理としてあえてジェラートを用いる意義は何なのか
それはお客様においてどのような価値を与えられるのか徹底的に自問自答を繰り返しながら、試作をしております。
冒頭に述べた私が目指す未来を、幸運なことに李澤様も同様に描いてくださっております。
私たちだけで独占するのではなく、この新しい展開をより多くの方の知見とアイディアを掛け合わせ、日本の食文化をさらに価値のあるものにしていくことができればと考えております。
これを読んでくださるあなたのご経験やアイディアを掛け合わせ、是非uniとともに日本の食文化を豊かなものにしていきましょう。
食堂や学生寮で調理をしていた母親の手伝いを通じて、「料理で人が喜ぶ姿」に魅せられ、料理人の道を志す。調理師学校の在学中に縁があり、ANAクラウンプラザホテル札幌へ入社。約36年にわたり、鉄板焼き、宴会洋食、デザートなど、さまざまな部門で経験を積む。20〜30代の頃には数多くのコンクールに挑戦し、全国大会で何度も受賞した実績を持つ。現在はホテルの料理長として腕を振るいながら、後輩の育成や、母校での非常勤講師(約20年間)として指導にもあたる。 「ホテルの料理人は、和・洋・中すべてを手がけるからこそ、幅広い興味と知識が欠かせない」だからこそ、時代の変化を柔軟に取り入れながら、日々楽しく真摯に味を探求し続けている。
ANAクラウンプラザホテル札幌 2階「オールデイダイニング メム」
住所:北海道札幌市中央区北3 条西1 丁目2 番地9 ANAクラウンプラザホテル札幌2階
電話:011-242-2822(直通)
ご予約方法:WEB予約
ホームページ:オールデイダイニング メム